2020年7月、ハル・ベリーが女性から男性に性別移行したトランスジェンダーの男性役を演じることを考えていると報じられた。シスジェンダー(誕生時に振り分けられた性別とジェンダー・アイデンティティが一致している人)の女性である彼女がトランスジェンダーの男性役を演じるというニュースは多くの人の非難を呼んだ。
ここでは、この一件をきっかけに、いち映画ファンでありシスジェンダーである私が調べた、「なぜ、シス俳優はトランスの役を演じるべきではないのか」を整理したいと思う。
第二弾は「メディアにおける表現編」である。
2015年、18歳以上の成人2000人以上を対象にしたアメリカの調査によれば、トランスジェンダーの知人あるいは同僚がいる人は16%。 それでは実生活でトランスジェンダーを知らない人はどこから情報を得るのか?そう、メディアからだ。
では、メディアでトランスジェンダーはどのように描かれているか。2002年以降10年間のトランスが登場するTVの単発エピソード102本を分析した結果、トランスジェンダーの表現は54%が「ネガティブ」、35%が「問題あり」から「よい」。「革新的、公平、正確」は12%のみ。
またトランスのキャラクターは40%が犠牲者、21%が殺人者あるいは悪役、5分の1がセックスワーカーとして描かれた。そして61%のエピソードでトランス差別的な罵倒や台詞があった。
そしてネガティブな描写を観ると、トランス当事者である回答者の69%が「悲しみ」、78%が「怒り」、69%が「社会に対する反感」、49%が「疎外感」、41%が「恐怖」を感じる。
それに対してポジティブな描写を見ると62%が「幸福感」、55%が「一体感」、46%が「社会に対する好感、および自身のジェンダー・アイデンティティについてもっと話していいという気持ち」を感じると回答している。
こちらはポジティブな例として最も名前が挙がったドラマの1つ、「Boy meets girl」への反応である。このドラマではトランス役をトランス俳優が演じている。
「トランス俳優を起用したトランスのポジティブな描写で…トランスは普通の人々として描かれ、センセーショナルなカリカチュアではない」
もう1つのドラマ、「Sense8」でトランス役を演じたトランス女優のジェイミー・クレイトンは語る。
「ストーリーの中心は性別移行ではなく、それはトランスのキャラクターにとって本当に重要なステップだと思う」
「ドラマがトランスは単にフィクションの世界に存在することができるという考えの方に進んでいるのに興奮しています。だって私たちは現実の世界に存在しているのだから」
「トランスの経験を持つより多くの人がものを書いているのは素晴らしいことです」
シス俳優がトランス役を演じることには他の懸念もある。
トランス女性で活動家のサリー・ゴールドナー曰く、 「スカーレット・ヨハンソンが男性役を演じるかもしれなかったりその逆だったり、それは私たちが自分でそうだと言っている存在ではないという考えを補強してしまう」
そう感じているのは彼女だけではない。
ドラマ「POSE」でトランス役を演じたトランス女優、アンジェリカ・ロスもこう語っている。
「ジャレッド・レトみたいな人が「ダラス・バイヤーズ・クラブ」でトランス女性を演じた後で(アカデミー賞を)受賞して、顎髭ぼうぼうで完全にシス男性の外見で立っていて、そういうことは観客にその全ての下にはまだ男性がいるんだと伝えているの。そしてしばしばキャスティング・ディレクターや監督と話していて感じるのは、私自身や他の多くのトランス俳優は(演じる)機会を拒まれてきた、なぜなら私たちは充分にトランスっぽく見えなくて、観客は理解できないだろう、混乱してしまうだろうってそういう人達が言うから。そしてそうすることがすごく辛くて実は有害なのは、彼らが言おうとしているのは、映画が進んで観客が観ている間、底には女性がいるんだ、男性がいるんだってことを観客に忘れてほしくないってことなの。でも実はそこがポイントなのよ。私たちは忘れてほしい。ただこの人は一人の人間なんだって、これは人間の物語なんだって見てほしい。足の間にあるものや、アイデンティティーが何なのか、ジェンダーのことを忘れてほしい。それがいい物語を語る目標です」
トランス女性で女優、脚本家、演出家のジェン・リチャーズもこう語っている。
「シス男性にトランス女性を演じさせることは、私の頭の中ではトランス女性に対する暴力と直結しています。思うに男性達がトランス女性を殺害するに至る理由の一部は、トランス女性と一緒だったことで他の男性にゲイだと思われるのを恐れるから。友人たち、つまり彼らがその判断を恐れる男性達とトランス女性を演じる人々が彼らが知る男性だからです」
Having trans actors play trans characters is about more than opportunity.@Disclosure_Doc is now on Netflix pic.twitter.com/u3zMiWhuew
— Netflix (@netflix) 2020年6月25日
「人々は私を殺したがっている。私たちはこの国で、自分自身であるがゆえに組織的に殺害されているの」
トランス女優のアレクサンドラ・ビリングスがそう語るように、トランスジェンダー及びジェンダー・ノンコンフォーミングの人々に対する犯罪は後を絶たない。
この記事の元となったTwitterのスレッドを発表した7月の時点で、2020年には既に21人の犠牲者が出ていた。この記事を書いている今、2020年11月30日、同じリンク先の記事を確認して、犠牲者数が「少なくとも39人」に増えていることに気づいた。4か月あまりでほぼ倍になったことになる。これらの事件では、動機が明らかにトランス差別そのものであることもある。トランスであるがゆえに職や家を失うなど、危険な立場に置かれることもある。また、警察の発表やローカルメディアの報道で被害者がミスジェンダリングされることも多い。
「Sense8」のクリエイターでトランス女性であるリリー・ウォシャウスキーはLGBTコミュニティにおける功績を讃えるGLAADメディア賞の授賞式で語っている。
「私たちは皆くそったれなドアをぶち壊して自分の物語を語らなければならない。問題は教育だから。声を持つということだから」
「ステージにいるストーリーテラーも、この部屋にいるストーリーテラーもみんな、自分のことを語る言葉を見つけつつある時のもっと大きな会話の一部なの。問題は共感。耳を傾けるということ。私たちはお互いに耳を傾けるすべを学ばなければならない」
これまで非当事者によって語られてきた誤ったステレオタイプを当事者が語り直し、その声をより多くの、当事者を知らない人々へ届ける。そうやって世界を変えようとしている人々を、映画ファン、ドラマファンとして支持したい。
https://twitter.com/netflix/status/1276210382625845248?s=20
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