映画を観る準備はできている。

映画についてのいろいろな話。

生きることが、石炭を飲みこむことだとしても。「心のカルテ」

※ネタバレがあります。

Netflixで「心のカルテ」を観た。

 

※この映画、最初に注意書きが入るのだが、摂食障害を抱える人々の経験に基づいて作られているため、生々しい描写も含まれている。

 

 

予告編

 

www.youtube.com

あらすじ

摂食障害を抱える女性がグループホームでの生活や仲間たちとの交流を通して再生していく姿を、「白雪姫と鏡の女王」のリリー・コリンズ主演で描いた、Netflix製作のオリジナル青春ドラマ。複雑な家庭環境で育った20歳の女性エレンは、重度の拒食症に苦しんでいる。継母の勧めでベッカム医師の診察を受けた彼女は、食べ物の話をしないことや最低6週間の入所を条件に、ベッカム医師が運営するグループホームで暮らすことに。エレンはホームの風変わりな規則に戸惑い、時に反発しながらも、同じく摂食障害を抱える同年代の入所者たちと共に、自分を見つめ直していくが……。型破りな医師ベッカムキアヌ・リーブスが好演。共演に「パーティで女の子に話しかけるには」のアレックス・シャープ、「ハッピーエンドが書けるまで」のリアナ・リベラト。

 

 

感想

この映画を観てまず思ったのは、「リリー・コリンズ(主人公のエレンを演じている)は大丈夫か?」だった。普段からほっそりしている彼女が、たぶんメイクなどの効果もあるのだろうが、この映画では心配になるくらいに痩せ細っている。インタビューによると減量するにあたっては栄養士がついたらしい。最低でもそれくらいはしないといけないだろう(余談だがこのインタビューでリリー・コリンズは共演者のキアヌ・リーヴスのことを「とっても優しくて、すごく物静かで、とにかくそれはもうラブリーなの」と語っており、キアヌ・リーヴスファンとしてはうれしいかぎり)。

同じインタビューでコリンズは、かつて自身も摂食障害を抱えていたが、治療や専門家の助けなしに自ら自分に何が起きているのかを悟ったと語っているが、劇中のエレンは違う。「コントロールはできてる。悪いことは起こらない」と彼女は言うが、背中にあざを作りながら腹筋をし、口に入れて噛んだ食べ物を吐き出し、好物のお菓子を進められても触るのがやっとの姿を見るとその言葉が正しいとはまったく思えない。彼女は食べないことによって逃げているようだ。自分の描いた絵が引き起こした死から。機能不全の家庭から。そしてルーカスに告白したことから察するに、性的対象として見られることからも(ベッカム医師が新しい名前を提案して主に男性の名前であるイーライをエレンが受け入れるところは象徴的だ)。ベッカム医師がアナに朗読させる詩のことば――「のみ込み続けた石炭は勇気だ」――にあるように、食べ物をのみ込むことは彼女にとっては勇気のいる行為だ。それは逃げることをやめ、自分を直視することだ。だからあの荒野に生えた木の上で、まるでグーグークラスターのような石炭のかけらを飲み下して、彼女は木の下に倒れている痩せ細った自分自身の姿をみとめるのだ。

 

www.vanityfair.com

 

好きなシーン

リリー・テイラーがリリー・コリンズに哺乳瓶でミルクをあげるシーン…と言うと、何も知らずにそれだけ聞いた人は(劇中のイーライのように)「は?」と思うだろうし、撮りようによってはこの映画一番のWTF(意味は調べてね)なシーンになりかねなかったと思うのだが、非常にまじめに撮られていて、自分を案じてくれている人に優しく抱えられて食べ物をもらうという、結果としては心安らかなシーンになっていると思う。

 

ちなみに

上記の哺乳瓶のシーンや継母が作ったハンバーガー・ケーキのシーンは、自身もかつて摂食障害を抱えていた、監督マーティ・ノクソンの実体験に基づいているという。

 

www.usatoday.com