映画を観る準備はできている。

映画についてのいろいろな話。

神は背を向けて沈黙している「マ・レイニーのブラックボトム」

※ネタバレがあります。

Netflixで「マ・レイニーのブラックボトム」を観た。

 

予告編

 

www.youtube.com

 

 

あらすじ

1920年代のシカゴを舞台に、「ブルースの母」と称される実在の歌手マ・レイニーと彼女を取り巻く人々を描いたNetflixオリジナル映画。「フェンス」の原作者としても知られる劇作家オーガスト・ウィルソンの戯曲を、「サヨナラの代わりに」のジョージ・C・ウルフ監督のメガホンで映画化した。1927年。シカゴの録音スタジオで、人気歌手マ・レイニーのレコーディングが始まろうとしていた。4人組バックバンドのひとりであるトランペット奏者レヴィーは野心に燃え、他のメンバーたちと揉め事を起こす。やがて遅れて到着したマ・レイニーは白人のプロデューサーらと主導権を巡って激しく対立し、スタジオは緊迫した空気に包まれる。マ・レイニー役に「フェンス」のオスカー女優ビオラデイビス。「ブラックパンサー」のチャドウィック・ボーズマンがレヴィーを演じ、彼の遺作となった。Netflixで2020年12月18日から配信。

 

感想

 どんな話なのかまるで知らずに見た。コメディなのかサスペンスなのか、そういう部分もまるで知らずに見た。すると私が見ていたのは、チャドウィック・ボーズマンだった。目を離すことができないようなエネルギーで、MCUで彼に親しんだ人はたぶん聞いたことがないであろう声としゃべり方で、たぶん全台詞の四分の一くらいは彼がしゃべったのではないだろうか。もうこのチャドウィック・ボーズマンを見せてくれただけでこの映画には感謝したくなってしまう。

 映画の内容に話を移そう。これはマ・レイニーという実在のブルース歌手がレコードを収録する一日の出来事を追った物語である。マ・レイニーとチャドウィック・ボーズマン演じるトランペット奏者のレヴィーは、映画の最初のコンサートの場面から火花を散らす。二人は二人ともがスターであり、スポットライトを求める存在なのだ。この二人は共に自分の音楽を大切にしており、自分のやり方で音楽をやっていきたいという同じ思いを抱いている。が、二人は相容れることがない。マ・レイニーは女王であり、レヴィーは僕になれる人間ではないからだ。二人は目指す音楽性もまるで違う。マ・レイニーは自らのルーツである昔ながらの音楽を大事にし、レヴィーが入れ込んでいるのは都会である北部で人気の現代的なアレンジだ。白人であるレコード会社の人間たちはレヴィーに曲を書くよう頼んだりレコード収録にレヴィーの現代的アレンジを使おうとしたりして、一見レヴィーに好意的であるように思われる。しかし、実のところ、そうではない。彼らはマ・レイニーやレヴィーの音楽を「金になるもの」として見ているに過ぎないのであり、それを理解していたのは結局は、「自分は敬意を払われている」と確認するためであるかのように、白人たちに無理難題を言いつけてそれに応じさせていたマ・レイニーの方であった。

レヴィーには夢があった。しかしその夢が壊れた時、彼には何もなくなってしまう。踏みつけられ汚された黄色い靴は夢の象徴だ。彼はそれを踏みつけた人間を許すことができない。開かずの扉を力ずくでこじ開けた時、そこにあったのは何だったか?行き止まりだった。外に出て、自由になるには、四方を囲む壁を這い上がるほかなかった。彼には這い上がる力があった。それなのに、その力がないと思い込まされてしまった。

だが、そもそも、扉を力ずくでこじ開け、更に壁を這い上がらなければならないのはなぜだろう?それはレヴィーの大事な人たちに惨い出来事が起こるのを許したこの世界の仕組みのせいだ。レヴィーが天に向かって叫んだように、今日も神は背を向け、今日も神は沈黙し、レヴィーが夢見た音楽は、白人に奪われて演奏されている。

 

ちなみに

・メイキング「マ・レイニーのブラックボトムが映画になるまで」も見た。

プロデューサーであるデンゼル・ワシントンチャドウィック・ボーズマンについてこう語るところがある。

「彼がいなくてさみしい。彼を愛してる。そして……映画を観れば私たちはいつも彼に会えるんだ」

泣いていいですか。

https://www.netflix.com/jp/title/81382641

 

デンゼル・ワシントンチャドウィック・ボーズマンには、「ボーズマンが大学生だった頃、イギリスへの留学費用が捻出できなかった彼のために、代わりに費用を負担したのがデンゼル・ワシントンだった」というエピソードがある。これを頭に入れてこの動画を見てほしい。

アメリカン・フィルム・インスティテュートの生涯功労賞を受賞したデンゼル・ワシントンに贈るスピーチである。

 

www.youtube.com

デンゼル・ワシントンなしには、ブラック・パンサーはいなかった」

泣いていいですか(二度目)。

 

・この映画の原作はオーガスト・ウィルソンによる戯曲である。1984年のオリジナル上演版、2003年の再演版、両方でチャールズ・S・ダットンがレヴィー役を演じている。ちなみに2003年版ではマ・レイニーがウーピー・ゴールドバーグ、シルヴェスターがアンソニー・マッキーだった。デンゼル・ワシントンが監督・主演、マ・レイニーを演じたヴァイオラ・デイヴィスが共演した映画「フェンス」もオーガスト・ウィルソンの戯曲が原作である。