SNSによって性別違和が「伝染」する、という主張(Rapid-onset gender dysphoria、ROGD)について調べたので共有します。
まずROGDは正式に認められた医学用語でも何でもない。臨床科学に関する団体の統括組織、CAAPSは2021年、「ROGDに関する妥当で実証的な研究はなく、ROGDは臨床科学のスタンダードである厳密な査読の対象にもされていない。さらにはROGDがトランスジェンダーの子どもたちや若者たちの生きた経験と合致するという証拠はない」として、「正確で実証的な証拠がないのなら、Rapid-Onset Gender Dysphoria (ROGD)および似通ったコンセプトを臨床・診断から除外することを支持する」というステイトメントを発表、62の医療団体等が署名している。
ROGDの存在を提唱する2018年のLisa Littmanの研究は、トランスの子どもたちに対するジェンダー・アファーミング・ケアに批判的なオンライン・コミュニティからデータを採ったものだった。もう一つ、専門家が指摘した大きな欠点は、トランスジェンダーの子どもたち自身ではなく、その親からデータを採っている点である。
ROGDが提唱することが本当ならば、医療施設には「突然」性別違和を感じるようになった若者たちとそうでない人の二種類がやって来るようになるはずだが、そうはなっていないという現場からの証言もある。近年の研究ではジェンダー・アファーミング・ケアを求めてクリニックにやってきた若者のうち98.3%が一年以上前から性別違和を抱えていた。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022347621010854
本当はトランスジェンダーではない若者がトランジションをすれば後悔する人が多数出てきそうなものだが、こちらの研究によれば、性別適合手術を受けた後それを元に戻す手術を求めた人、誕生時に割り当てられた性別へと再トランジションをした人は0.3%に過ぎない。
こちらは男女いずれかのトランスジェンダーとアイデンティファイする若者を対象にした研究。平均5年間の社会的トランジション後、再度トランジションした人は7.3%いたが、1.3%がその後元のトランスジェンダーとしてのアイデンティティに戻り、3.5%がノンバイナリーとアイデンティファイするようになった。シスジェンダーへと再トランジションしたのは2.5%。ということは97.5%の人がトランジションを受け入れていることになる。
また、実際にデトランジションを経験したことがある人を対象にした研究では、トランジション自体を後悔したためではなく、外的要因(経済的理由やサポートの欠如、家族からのプレッシャーなど)を挙げる人が82.5%にのぼっている。
デトランジションにはイデオロギーが絡む場合もある。こちらの記事はジェンダー・アファーミング・ケアを受けていたがオンラインのデトランジショナーによる反トランスグループの思想に触れてデトランジションし、その後トランスマスキュリン/ジェンダークィアとして再トランジションしたKy Scheversさんの体験。
Scheversさんは反トランスの思想の拡散をするなどしていたが、仲間たちがプラウド・ボーイズなどの極右団体と組むようになってから疑問を持ち始めた。こちらはScheversさんがかつての仲間たちについて語った文章だが、前述のLittmanやLittmanの研究の根拠となっている反トランス的なオンラインコミュニティFourthWaveNowと彼女たちが繋がっていることがわかる。
ROGDは主にAFAB(誕生時に女性に割り振られた人)に影響を与えるとされているので、トランスの若者のAFAB(誕生時に女性に割り振られた人)とAMAB(誕生時に男性に割り振られた人)の比率はAMAB<AFABとなるはずである。しかし2017年と2019年に米国の16の州の若者を対象にしたデータに基づくこちらの研究では、どちらの年もAMAB>AFABとなった。(2017年:AMAB:AFAB 1.5:1、2019年:AMAB:AFAB 1.2:1)。
また、トランスジェンダーの割合も2017年から2019年で2.4%から1.6%に減少している(調査に参加した人数は91937人から105437人に増加)。
更にトランスの若者がいじめの被害者になる割合はシスジェンダーの性的マイノリティよりも高く、若者がトランスとしてカミングアウトするのは「性的マイノリティのスティグマを避けるため」「仲間内でより人気が出るから」とする主張に一致しない。