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映画についてのいろいろな話。

呪いを解き憎しみと戦う「パディントン2」

 

※ネタバレがあります。

あらすじ

 

1958年に第1作が出版されて以降、世界40カ国以上で翻訳され、3500万部以上を売り上げるイギリスの児童文学「パディントン」シリーズの実写映画化第2弾。ペルーのジャングルの奥地からはるばるイギリスのロンドンへやってきた、真っ赤な帽子をかぶった小さな熊のパディントン。親切なブラウンさん一家とウィンザーガーデンで幸せに暮らし、今ではコミュニティの人気者だ。大好きなルーシーおばさんの100歳の誕生日プレゼントを探していたパディントンは、グルーバーさんの骨董品屋でロンドンの街並みを再現した飛び出す絵本を見つけ、絵本を買うためパディントンは窓ふきなど人生初めてのアルバイトに精を出していた。しかしある日、その絵本が何者かに盗まれてしまう事件が発生し、警察の手違いでパディントンが逮捕されてしまい……。イギリスの人気俳優ヒュー・グラントが、新たな敵役フェリックス・ブキャナンを演じる。

 

予告編

 

 

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感想

 第一作はとても素晴らしかった。しかしこの第二作、それさえ超えてきた感がある。何だろうか、この多幸感。人の善なる心を信じる気持ちに満ちたパディントンを見ていると、「と、とうとい…」と思ってしまう。冒頭のパディントン出勤(?)シーンや、自転車VSパディントンとお友だちのチェイスシーン、りんご飴の新しい使い方、脱獄シーンなど、いわゆるアニメ的な動きのあるすべてのシーンが見ていて楽しい。

 そしてこの映画、第一作に続き第二作でもヴィランは血縁がらみの事情があって悪事を働き、そこに血縁ではないパディントンを家族として受け入れているブラウン家が絡む、という構造が共通していて、「血縁に囚われず、大切な人(クマ)を大切にしましょう」というメッセージが揺るぎなくあって、そこがいいですね。

 

呪いの言葉が解かれる時

 

ナックルズがパディントンと一緒にマーマレード・サンドウィッチを作り、その反応を訊ねるシーンがある。応えようとしたパディントンを遮って、彼は言う。以下はその時のナックルズの英語の台詞(※ヒアリングしたものなので正確ではない可能性があります)。

 

They hated us! I knew it!

My father always said that I amounted naughty, and he was right!

気に入らないんだろ!やっぱりな!

父親がいっつも言ってたよ、お前はだめになるってな、当たってたわけだ!

 

この台詞で、大柄で恐ろしげなナックルズが、「お前はだめになる」という父親にかけられた言葉を引きずっていることが明かされる。答えようとしたパディントンを遮っているところにも注目したい。子どもの時にお前は駄目だと言われ、それを信じてしまうと、人は「自分が駄目ではない」という言葉を信じられなくなる。更には、「自分が駄目ではない可能性」を拒否するようになる。ここで起きているのはそういうことだ。ナックルズは自分をだめな人間だと思っているがために、「お前はだめだ」という言葉しか期待できないのだ。しかし囚人たちは絶賛と拍手で彼を迎え、そのために彼の自尊心は回復される。めっちゃいいシーンである。

 

ブラウン家+隣人のみんなVSゼノフォビア

 

ブラウン家の一同が車に乗り込んでパディントン救出に向かおうとする時、立ちはだかるのがパディントンを熊だからと危険視する隣人、カリー氏だ。

ここでミスター・ブラウンが言ってやる台詞がこれだ。

 

あんたは最初からそうだ/クマだというだけで偏見を持つ/だがパディントンは誰にでもいい部分を見つける/だから誰とでも友達になれる/彼が来てからみんなハッピーになった/彼は親切を惜しまない/どくんだ カリーさん 我々は行く!

 

ここでちょっと冒頭のパディントン通勤(?)シーンを思い返してほしい。

パディントンは家を出て、まず黒人女性に自転車に乗せてもらう。この時に相手を「マドモワゼル」と呼んでいることから、恐らく彼女はフランス語話者の移民なのだろうことが示唆される。演じるマリー・フランス・アルバレスは実際にフランスでコンゴ人の母とスペイン人の父の間に生まれ、英語作品にもフランス語作品にも出演している女優だ。パディントンが鍵を忘れないように声をかけるジャフリ先生を演じるのはインド系のサンジーヴ・バスカー。新聞をくれる売店のミス・キッツは白人女性、パディントンをゴミ収集車に乗せてくれるバーンズさんは黒人男性だ。人種的、民族的バックグラウンドにかかわらず、パディントンはすべての人に分け隔てなく礼儀正しく接し、友好的な関係を築いている。

そこでブラウン家の前にカリー氏が立ちはだかるシーンに戻ろう。パディントンをクマだからと忌み嫌うカリー氏は、移民や外国人に差別的な目を向けるレイシストの象徴だ。ミスター・ブラウン(をはじめとしたブラウン家の面々)はカリー氏と同じ白人である。ミスター・ブラウンは同じ白人であるレイシストに相対して、あくまでも移民の象徴であるクマ=パディントンの側に立つのである。マイノリティが差別される時、差別者と同じ属性を持つマジョリティが差別に反対することはとても重要だ。ミスター・ブラウンがここで行っているのはそういうことだ。

そしてかねてからパディントンと交流があった隣人たち――様々な人種・年齢・性別からなる彼等が、力を合わせてブラウン家の車を押した時、私は実際に起こった出来事を重ねずにはいられなかった。

 

二〇二一年五月、スコットランドグラスゴーで、早朝、移民局に二人の男性が拘束された。この出来事は午前中に二〇〇人が集まるデモに発展、デモ参加者たちは「彼らは隣人だ、解放しろ」と叫んで二人を乗せた車両を取り囲み、一人は車を発進させまいと車体の下にもぐりこんだ。

 

 

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彼らの抗議の甲斐あって、二人は解放された。これがその時の映像だ。

 

 

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パディントンのために頑張った、ブラウン家の人々と隣人たちの姿がここにある。

 

ヒュー・グラントは憎めない

 

ヒュー・グラント演じるフェニックス・ブキャナンは、財宝を奪って返り咲きを図ろうとし、そのために無実のパディントンが刑務所に入れられてもお構いなしの悪党である。パディントンを刑務所に入れるなんて!しかしこれがなかなか憎めない。ヒュー・グラントの特性は、よーく考えたら(考えなくても)ヒドイ奴を演じても、なぜだかわからないが憎めないことではないだろうか、というのが持論なのだが、今回も(私にとっては)そうだった。最後のはじけた姿なんか、ここまではじけられたらもう拍手するしかないぜ。

ちなみにヒュー・グラント氏は「パディントン2」のことを「今まで出た中で最高の映画かも」と言っている。

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好きな台詞

・「心を開けば足も開く」

あのヨガのシーンが壮大な伏線だったなんて…

 

・「命中!」

あの「昔はカッコよかったミスター・ブラウン」のシーンも伏線だったなんて…

 

総評:おまえミスター・ブラウン好きだな(好きだけど)。