映画を観る準備はできている。

映画についてのいろいろな話。

バッドなホラー映画を求めるあなたに「エルム街の悪夢(2010)」

※ネタバレがあります。

 

 

予告編

 

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あらすじ

夢の中から人々を襲う殺人鬼フレディ・クルーガーの殺戮を描く同名人気ホラーシリーズの第1作をマイケル・ベイ製作、ジャッキー・アール・ヘイリー主演でリメイク。エルム街に住む高校生のナンシー、クリスらは鉄の爪を持つ男に襲われる悪夢に毎晩うなされていた。そんな中、同じ悪夢にうなされていた仲間のひとりが現実に殺害され……。監督は、これまでにメタリカやグリーンデイなどのPVを手掛けてきたサミュエル・ベイヤー。(映画.comより引用)

 

感想

 バッドなホラー映画を見たくなることはないでしょうか。私はあります。バッドと言うのはバッドエンドとかそういう意味ではなく、にべもなく言ってしまえば「出来が悪い」という意味です。だって出来のいいホラー映画ってどきどきはらはらするじゃないですか。そして時には絶望的なエンディングに打ちひしがれることだってあるじゃないですか。私はそういうのが大好物なホラーファンなわけですが、しかしそういうガチに素晴らしいホラー映画を観るには心の体力(心の体力??)が足りない時がある。もっとこう、若者が殺される系の映画が観たい…でもこう出来の悪さにツッコミを入れながら観る感じのほわっとしたやつ…そういうのがいい…そういう時が来たので、いい評判を一度たりとも聞いたことのない、たぶんこれはきっと私のバッドなホラー映画欲を満たしてくれるやつ…!なにおいがもうぷんぷんする映画を観ることにしました。そう、「エルム街の悪夢(2010)」です。

 結論から言えば、正解でした。「エルム街の悪夢(2010)」はまさに私のバッドなホラー映画欲を満たしてくれる、まれにみるバッドなホラー映画だったのです!

エルム街の悪夢1984)」はあのホラー映画史に残る怪物フレディを世に出した記念碑的名作でありました。それが後ろにつく公開年が違うだけでこの無残なありさま…!思うにこうなってしまったのにはわけがあります。そう、監督です。身も蓋もねえな!

「忘れられない恐怖シーンを見たいぜ」欲というのがホラー映画ファンにはあると思うのです。そして1984年版はその点素晴らしかった。あの最初の殺しのシーンにしろ、バスルームのシーンにしろ、そしてフレディの造形にしろ、美しくさえあるエンディングシーンにしろ、ビジュアルがとても印象的なシーンが1984年度版にはありました。そして1984年度版を知っているからこそ、リメイクにはオリジナルと同じくらい、あるいはオリジナルを超えるほどの印象的なシーンを!期待してしまうではないですか我々は!

しかし2010年版にはそれがなかった。最初にナンシーが悪夢を見るシーンのCGフレディの怖くなさにやな予感を覚えたあなた、あなたのその予感はたぶん正しいです。そもそもフレディが怖くない!怖くないよ全然!これは演じたジャッキー・アール・ヘンリーのせいというよりあのデザインの問題ではないだろうか。そもそも悪夢のシーンもどれも同じ工場みたいなところに行って基本的に後ろからばあっと脅かすだけだし、終盤のナンシーをいじめるところだけは若干マシだけれども、Jump Scareのやり方がわかってないなお主…と歴戦のホラー映画ファンとしては思ってしまうのでした。びくうっってしたいんですよ私は。全然びくっとしなかったぜ!そして全体的に殺しのシーンは血のりが少なすぎます。フェデ・アルバレスに任せていたならきっとこれの十倍は血まみれにしたことでしょう。

ちなみにこれがフェデ・アルバレスによるリメイク版「死霊のはらわた」の予告編だぜ!予告編だけでも「エルム街の悪夢(2010)」よりよっぽど怖いと思うので閲覧注意だぜ!

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これがなぜかと言うと、たぶん監督サミュエル・バイヤーがホラー愛の薄い人だったからではないか…と思うのです。サミュエル・バイヤーはミュージックビデオをたくさん撮っている人で、長編映画は「エルム街の悪夢(2010)」しか監督していません。でもミュージックビデオの世界では、NirvanaSmells Like Teen SpiritGreen Day のWake Me Up When September Endsも監督している人なのです。

 

Green Day - Wake Me Up When September Ends [Official Music Video]

ジェイミー・ベルエヴァン・レイチェル・ウッドが出ています。

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Maroon 5 - Animals (Official Music Video)

ぶっちゃけ「エルム街の悪夢(2010)」よりよっぽどホラーだと思う。

 

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というわけで「エルム街の悪夢(2010)」はツッコミどころ満載、あなたのバッドなホラー映画欲を必ずや満たしてくれる、期待にたがわぬバッドなホラー映画でありました。

 

前作に続いていいホラー「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」

※ネタバレがあります。

 

予告編

日本版はあまりにも見せすぎではと思うので英語版の予告編です。

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あらすじ

 

エミリー・ブラント主演で、音に反応して人類を襲う“何か”によって文明社会が荒廃した世界を舞台に、過酷なサバイバルを繰り広げる一家の姿を描き、全米でスマッシュヒットを記録したサスペンスホラー「クワイエット・プレイス」の続編。生まれたばかりの赤ん坊と耳の不自由な娘のリーガン、息子のマーカスを連れ、燃えてしまった家に代わる新たな避難場所を探して旅に出たエヴリン。一同は、新たな謎と脅威にあふれた外の世界で、いつ泣き出すかわからない赤ん坊を抱えてさまようが……。主人公エヴリンをブラントが演じ、リーガン役のミリセント・シモンズ、マーカス役のノア・ジュプも続投。新キャストとしてキリアン・マーフィジャイモン・フンスーが加わった。監督・脚本も前作同様、ブラントの夫で前作で夫婦共演もしたジョン・クラシンスキーが再び手がけた。(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 音に反応するクリーチャーの襲撃が初めてあった日から幕を開け、タイトルが出て、前作ラストの直後のシーンに繋がるという無駄のない作り。最初は「赤ん坊がいつ泣くかわからない」というネタでひっぱるのかと思いきや、割と早い段階でその問題はおおかたクリアされ、焦点は別の問題に移っていきます。自分なら他の生存者を救えると信じたリーガンがとった行動によって、遠く離れたところにいる家族が救われるという展開がアツい。あとキリアン・マーフィが手話を披露するところですが、「ここ来るぞ!キリアン・マーフィあれやるぞ!」と思っていたら本当にやってくれたのでうれしかった。きれいな伏線回収ですね。前作に引き続いて登場人物たちが考えた上での最善の行動をとるタイプのホラー映画なのですが、気になったのは「裸足で歩くのは危ないので家を出る時に靴を持って行った方がいいと思います」という点(まあ家が火事にあったりしていたので持ち出せなかったのかもしれない)と、ある人物が死ぬシーンがちょっと不自然な点(あそこはすぐシャッター閉める所だろ)ですね。しかし後者についてはクリーチャーが建物内に侵入しなければ盛り上がらないので仕方ない…かな…

 また、今作も前作と同じく気持ちよく潔い感じで終わっております。

 

ちなみに

 ・ジャイモン・フンスーの役は元々「エターナルズ」のファストスことブライアン・タイラー・ヘンリーが演じるはずだったが、スケジュールの都合でヘンリーが降板せざるをえなくなったそうだ。

collider.com

 

ウィリアム・フリードキンがこのようなツイートをしている。

「『クワイエットプレイス 破られた沈黙』はクラシックなホラー映画だ。シネマが戻ってきた」

 

 

・前作でアボット家の次男ボーを演じたケイド・ウッドワードの弟ディーン・ウッドワードが今作ではボーを演じている。

 

aquietplace.fandom.com

 

 

・気になる続編だが、第三弾が2025年公開、スピンオフも制作されるとのこと。

 

www.digitalspy.com

 

奇跡は起こらない、でも。「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」&「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

「とびだす絵本とひみつのコ」はこちら↓

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「青い月夜のまほうのコ」はこちら↓

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あらすじ

「とびだす絵本とひみつのコ」

 

「日本キャラクター大賞 2019」でグランプリを受賞したサンエックス株式会社の大人気キャラクター「すみっコぐらし」の劇場版アニメーション。すみっコを好む個性的なキャラクターたちが、不思議な絵本の中で繰り広げる大冒険を描く。ある日の午後、お気に入りの喫茶店「喫茶すみっコ」を訪れたすみっコたちが注文した料理を待っていると、地下室から謎の物音が聞こえてくる。音の正体を確かめに行ったすみっコたちは、そこで1冊の飛び出す絵本を発見する。絵本はボロボロでページの大事なところがなくなっており、桃太郎のお話のページには背景があるだけでおじいさんもおばあさんもいない。すると突然、大きな影が現れ、えびふらいのしっぽが絵本の中に吸い込まれてしまう。「アイドルマスター シンデレラガールズ劇場」のまんきゅうがメガホンをとり、「銀河銭湯パンタくん」の角田貴志が脚本、「がんばれ!ルルロロ」のファンワークスがアニメーション制作を担当。(映画.comより引用)

 

 

 

「青い月夜のまほうのコ」

 

サンエックス株式会社の人気キャラクター「すみっコぐらし」を映画化し、スマッシュヒットを記録した「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」に続く劇場アニメ第2弾。とある秋の日、キャンプへ出かけたすみっコたちは、空にいつもより大きく青く輝いている月を発見する。「5年に1度の青い大満月の夜、魔法使いたちがやって来て夢をかなえてくれる」という伝説の通り、すみっコたちの町に魔法使いの5人兄弟が出現。彼らはあちこちに魔法をかけ、町中をパーティ会場のように彩っていく。楽しい夜にも終わりが近づき魔法使いたちは月へと帰っていくが、たぴおかが魔法使いのすえっコ・ふぁいぶと間違えられて連れて行かれてしまう。前作に続き、井ノ原快彦と本上まなみがナレーションを担当。「夏目友人帳」シリーズの大森貴弘が監督を務め、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の吉田玲子が脚本を手がけた。

(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 すみっコぐらし、である。

 あなたもなんとなく見かけたことくらいあるかもしれない。なんか丸っこくて、柔らかくて、見ているだけでほわーんとなるようなキャラクターたちを。ぬいぐるみをはじめとした数限りないグッズに、グッズ&テイクアウトショップ「すみっコぐらし堂」、メトロポリタン美術館展(!?)他とのコラボ、などなど、多面的に展開している「すみっコぐらし」であるが、映画も制作されヒットを記録している。それがこの二本だ。

 アニメとしては、とにかくかわいい。いや、元々のキャラクターがかわいい、というのはもちろんわかるのである。しかしこのパステルカラーの選択といい、キャラクターそれぞれに声優をあててしゃべらせるのではなく素朴なナレーションで物語を語りつつ台詞は書き言葉にする、という選択といい、このキャラクターたちの世界をアニメにするにあたっては大正解じゃなかろうか。ランタイムが一時間そこそこというのも日々お疲れの身にはありがたい。そして物語だが…

 そう、物語について語りたいのである。それも「とびだす絵本とひみつのコ」&「青い月夜のまほうのコ」二本をセットにして。

 まず「とびだす絵本とひみつのコ」において、すみっコたちがこれまで懸命におうちを見つけてあげようとしていたひよこが、元々えほんに描かれたらくがきであることが判明する。そこですみっコたちは自分たちの世界で一緒に暮らすようひよこに提案する。

 「青い月夜のまほうのコ」では、魔法使いたちが末っ子のふぁいぶに優しくしてくれたとかげの夢をかなえてあげようとする。

 これら二本の映画は、言うまでもなくすみっコたちが暮らすここではないどこかを舞台としており、そこでは現実の世界ではありえないことが起きたりする(食べてもらえなかったとんかつのはじっこがしろくまと同じサイズで意志を持って動きまわったりしている)。映画のメインターゲットは、作りからして子どもたちだろう。だから、いいんじゃないだろうか、と思うのである。多少の奇跡が起こって、それでキャラクターの願いが叶っても、それはそれでいいんじゃないだろうか。

 しかし、どちらの映画でも奇跡は起こらない。「とびだす絵本とひみつのコ」のひよこは、あくまで「えほんに描かれたらくがき」なのであり、すみっコたちの世界に行くことはできない。「青い月夜のまほうのコ」では、とかげの夢――おかあさんといっしょに暮らしたい――を、魔法使いたちは叶えることができない。ひよこは結局えほんの世界に居続けるし、とかげは「本当はきょうりゅうである」という正体を仲間にも隠したまま、おかあさんであるきょうりゅうと離れ離れに暮らし続ける。

 現実の世界の話をしよう。どんなに願ったところで、世界にはどうにもならないことはある。もっと生きていたい人が病気にかかったり、事故に遭ったりする。それは誰が悪くて起こるのでもない。「病気にならないで」「事故に遭わないで」とどんなに強く願っても、奇跡が起こって都合よく病気や事故やその他のどうしようもないことから人が守られることはない。決して、ない。私たちは「じゅうぶん強く願えば叶う世界」に生きているわけではないし、今あるこの世界を、「じゅうぶん強く願えば叶う世界」に変えることもできない。私たちにはそんな力はない。

 私たちには、強く願って奇跡を起こす力はない。けれど、自分のできることをやって、自分自身や周りを少しだけよくすることは、できるのだ。すみっコたちが「とびだす絵本とひみつのコ」において、ひとりぼっちのらくがきのひよこのためにしたことがそうだし、魔法使いたちが「青い月夜のまほうのコ」において、とかげのためにしたことがそうなのだ。

 安易な奇跡によって世界の姿を変えキャラクターを救済するのではなく、あくまでままならない世界において自分たちにできるかぎりのことをやる。この二本の映画がそういう物語であることが私はとてもうれしい。

 

ちなみに

 これが「すみっコぐらし」公式サイトだ!↓

 

www.san-x.co.jp

 

 

 これが「すみっコぐらし堂」だよ!公式サイトからも飛べるよ!(行きたい)↓

 

sumikkogurashido.jp

 

 

 メトロポリタン美術館展とのコラボはこちら↓から!ちょっと…かわいすぎるんすけど…

www.san-x.co.jp

この映画で理解できるのはニコラス・ケイジだけだぜ!「ウィリーズ・ワンダーランド」

※ネタバレがあります。

 

予告編

 

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あらすじ

ニコラス・ケイジが製作・主演を務め、廃墟となったテーマパークで悪魔のようなアニマルロボットたちに襲われる人々を描いたアクションスリラー。車が故障し、人里離れた町に取り残された男。通りかかった修理工に助けられるが修理代を払えず、支払いの代わりに、廃墟となったテーマパーク「ウィリーズ・ワンダーランド」の清掃員として一晩だけ働くことに。しかしパークには暗い過去があり、かつて子どもたちに大人気だった動物キャラクターのロボットたちは恐ろしい殺人鬼と化していた。園内に閉じ込められた男は、容赦なく襲い来るロボットたちと死闘を繰り広げる。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2021/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2021」(2021年7月9日~8月5日)上映作品。(映画.comより引用)

 

感想

 あらすじには書かれていないのだが、この映画には殺人ロボットを全滅させるべくテーマパークに火を点けようとする若者たちが出てくる。当初は外からガソリンをかけて火を点けよう!という計画だったのが、いろいろあって殺人ロボットがうようよしているテーマパークに入りこんでしまった若者たち。そしてその中には一組カップルがいるのだが、これが意味不明な行動をとる。なんと他の若者たちと離れて別室に閉じこもり、いちゃいちゃ(婉曲表現です)しはじめるのである!

 俺にはわからない…なぜそんなことをするのだろう…殺人ロボットがうようよしていいるのに…

 また、若者たちの中には中心人物であるリブに恋心を抱いている、というどうでもいい設定を背負ったクリス君という男の子がいる。このクリス君が殺人ロボットの一体に話しかけられるところがあり、ロボットは「わたし他のロボットとはちがうの、皆わたしのこと醜いって言っていじめるのよ」などと言う。もちろんそんな言葉にだまされるクリス君ではありません…ととても言いたいのだが、クリス君はなんとこの言葉を信じるのである!!

 俺にはわからない…なぜ信じるのだろう…やばい殺人ロボットだとわかっているはずなのに…

 まあそんなわけで本作は登場人物がよくわからないご都合主義な行動をとるタイプの映画なのだが、そんな中で唯一筋が通っているのがニコラス・ケイジなのである。

 ニコラス・ケイジは「一晩このテーマパークをお掃除したら車の修理代はチャラにしてあげますよ」と言われ、それを受け入れる。オファー時に、彼はテーマパークのオーナーから「ちゃんと休憩もするのですよ」と言われたのを忠実に守ってアラームが鳴ったらエナジードリンクを一缶飲みゲーム機でゲームしあとなんか踊ったりもして休憩を取る。そしててきぱきお掃除をし、その一環として邪魔する殺人ロボットどもをぶち殺し(死体はちゃんとゴミ袋に詰める)、たとえ外に出られるチャンスがあっても逃げようとしない。若者たちが出してあげようとして「ここにいたら殺されるんですよ」と言ってもそんなものは無視である。だってお掃除をしないといけないからだ。彼の行動は首尾一貫していて、「車を取り返す」ことを目的として「掃除をし」「休憩をする」。「殺人ロボットを始末する」は「掃除」部分に含まれているわけである。筋の通った論理的な行動をするニコラス・ケイジが見ていて非常に気持ちがいい。このわけのわからん世界であなただけが理解可能です。

 しかしこの映画、せっかくニコラス・ケイジがこんなにも共感度マックスの男を演じてくれているのに、それ以外がまるで駄目なのである。まず殺し方が駄目。ケヴィン・ルイス(監督です)よ、お主ホラー畑の人間ではないな…と思ってIMDBをチェックしてみたら、案の定、犯罪サスペンス系が多い人のようである。これをもしホラー愛にあふれ見せ方が分かっている監督が血しぶきやグロにまみれたすんげえ殺し方満載で撮っていてくれていたら怪作になっていたかもしれないのに…と、それが残念である。しかしニコラス・ケイジは見てくれ。

 

ちなみに

 ・ニコラス・ケイジは劇中一切しゃべりません。

 ・ニコラス・ケイジニコラス・ケイジと連呼してしまったが、役名はThe Janitor(清掃員)です。本名もわからないのさ!

毎日別人になるあなた「エブリデイ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

日本語版は見つけられず。

英語版はこちらですがけっこうネタバレかも。カットされたシーンがけっこう入っている。鑑賞後に観ることをおすすめします。

 

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あらすじ

 

デビッド・レビサンの小説「エヴリデイ」を実写映画化したSF青春ラブストーリー。毎朝違うティーンエイジャーに憑依して目を覚まし、毎日違う人生を送る霊体“A”。ある日、16歳の高校生ジャスティンに憑依したAは、彼の恋人リアノンに恋をする。その後、カトリック信者ネイサンに憑依したAはリアノンに思いを告白。さらに数日後、Aは手紙でリアノンを呼び出し、自分の正体を打ち明ける。毎日違う人物になって現れるAに違和感を抱きながらも、交流を深めていくリアノンだったが……。ヒロインのリアノン役に「ナイスガイズ!」のアンガーリー・ライス。共演に「名探偵ピカチュウ」のジャスティス・スミス、「20センチュリー・ウーマン」のルーカス・ジェイド・ズマン。監督は「君への誓い」のマイケル・スーシー。(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 

 リアノンの母親役はマリア・ベロジャスティン役はジャスティス・スミス(「名探偵ピカチュウ」は未見なので私にとっては「ジュラシック・ワールド 炎の王国」のスクリーム担当さん)、Aが乗り移る体の持ち主ジェームズ役でMCUの「スパイダーマン」の相棒ネッドことジェイコブ・バタロンも顔を出し、脚色は「ぼくとアールと彼女のさよなら」の原作者兼脚色のジェシー・アンドリュース、となかなかに豪華な面々が、デイヴィッド・レヴィサンの「エヴリデイ」を映画化。毎朝起きると違う人間になっていて、24時間限定でその人として暮らす、という生活を生まれてこのかたずっと続けているAという存在を、どうやって映像化するのかな、たとえば誰か一人にナレーションさせたりとかするのかな、などと観る前に思ったが、潔くいろいろな俳優に一人の人物を演じさせるというやり方を採用している。この映画ではリアノンの視点で物語が進むが、原作ではAの視点で物語が語られるので、けっこう受ける印象が違う。映画でも触れられている通り、いろいろな体で人生を経験するAは自らを男だとも女だとも思っていないので、字幕(今回は字幕で観ました)にもそれを反映させて、俗に言う「女言葉」「男言葉」はしゃべらないようにしてほしかったなあ、と思う。原作小説の日本語翻訳はその点ちゃんと考えられていて絶妙な言葉遣いになっていたという印象がある。

 

原作小説はこちら!

honto.jp

 

 

 実は原作小説で重要な要素になっているものが、この映画版ではばっさりと削除されていて、映画版ではAとリアノンの関係に焦点を当てた作りになっているのだが、これはこれでありじゃないかな…と思う。ふたりがダンスしたり、水族館に行ったり、一緒にシャボン玉を作ったりする場面はきらきらしていたし、その後もふたりが繋がりを持っているということを暗示するラストの処理も、なるほどと思った。

 

ちなみに

 

・Aが乗り移ったトランスの男の子とリアノンが会話する短いシーンがある。このトランスの男の子を演じる俳優が印象的だったので調べてみたところ、この人はイアン・アレクサンダー。トランスジェンダーで、ノンバイナリーであることをカミングアウトしている。ゲーム「The Last of Us Part II」でもトランスジェンダーのLev役を演じ、「スタートレック:ディスカバリー」では「スタートレック」史上初のトランスジェンダーのキャラクター、Gray役を演じ、トランスジェンダーであることをオープンにしているアジア系アメリカ人として初めてテレビ出演した人物となった。ちなみにまだ二十歳。

 

deadline.com

 

 

とにかく明るい青春ホラー「ザ・スイッチ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

 ちょっと間違ってる気がするけど…(ミリーは殺されてはいないからね…)

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あらすじ

「透明人間」「ゲット・アウト」などホラー、サスペンスの話題作やヒット作を数多手がけるジェイソン・ブラムが製作、「ハッピー・デス・デイ」シリーズのクリストファー・ランドンが監督を務め、気弱な女子高生と連続殺人鬼の身体が入れ替わってしまったことから巻き起こる恐怖を描いた異色ホラー。家でも学校でも我慢を強いられる生活を送る冴えない女子高生のミリー。ある夜、アメフトの応援後に無人のグラウンドで母の迎えを待っていた彼女に、背後から指名手配犯の連続殺人鬼ブッチャーが忍び寄る。鳴り響く雷鳴とともにブッチャーに短剣を突き立てられたミリーだったが、その時、2人の身体が入れ替わってしまう。24時間以内に入れ替わりを解かなければ、二度と元の身体に戻れない。ミリーは新たな殺戮を企てるブッチャーを相手に、自分の身体を取り戻そうとするが……。「名探偵ピカチュウ」「スリー・ビルボード」のキャスリン・ニュートンがミリーに扮し、ブッチャーと入れ替わり後は手当たり次第に殺戮を企てる殺人鬼を熱演。一方、中身は女子高生で自分の身体を取り戻そうするブッチャーをビンス・ボーンが演じた。(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 最初のブッチャーが若者たちを殺していくシーンから、ホラーファンとしてはいいね!となる。殺し方がそれぞれにエグい。エグくてオリジナリティにあふれている。あなたはホラー映画の殺しにオリジナリティを求めるタイプのホラーファンですか。私はそうである。前置き無しでいきなり殺戮シーンから入るのもいいね!

 しかし青春ホラーって、あまりにも主人公の周りの人たちがいい人過ぎると、殺された時に「いやーやめてー」となりませんか。この映画にも主人公と親友二人、主人公の片思いの相手、主人公の家族、などなどいい感じのキャラクターが多数出てくるのだが、「い、いや、まさかこの人たちが無残に殺されるなんて…そんなのやめてー」と思いながら見ていた。でも大丈夫。主人公は冴えないいじめられっ子なため、これまで主人公をいじめてきたイヤーな教師とか、イヤーなクラスメイトとか、イヤーな男子生徒とかがかわりに殺されてくれます。これで殺される人数が確保され、人が殺されてもそこまで嫌な気持ちにならず、なおかつ主人公周りのキャラクターを応援しながらこの映画を楽しむことができるのです。作り手はよくわかっていらっしゃる。

 個人的にはヴィンス・ヴォーンの女子高生演技にはちょっと誇張され過ぎじゃね?と感じこれ↓を思い出してしまった。まあこういうシチュエーションならこれくらい大げさな方がいいかもしれないんだけどね。

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 ラスト、よくある入れ替わりものなら「実は元に戻ってなくて…」殺人鬼が実は生きていた系なら「家族が皆殺しにされ主人公も捕まって…」みたいな絶望的なエンディングばかりが頭に浮かんでしまい、一体どうやって終わらせるのかな…と思っていたのだが、見せられてみたら「うんこれしかないよね!大正解!」なエンディングでよかった。ミリーは大柄な成人男性という「肉体的な強さ」を経験したわけだけど、でもこのエンディングで描かれているのは彼女が身に着けた「精神的な強さ」がそれに打ち勝つ姿であり、内気で引っ込み思案だった女の子が「私にもできる」という自信を手に入れる姿であって、これぞ正しい青春映画の在り方だと思いました。

 

ちなみに

 

・「黒人とゲイじゃ絶体絶命!」

 メタな台詞である。ジョシュ君…

 

・「話すのは早いと思ったけど…女性が好きだ」

 「それだけは絶対にないわ」

 こんなカミングアウトシーン(嘘だけど)見たことないぜ。ジョシュ君...。

 

・今作で実に生き生きとジョシュを演じているミシャ・オシェロヴィッチだが、実はここに至る道は平坦なものではなかった。こちらのインタビューでは十五才の時、夜中に両親の雇った二人の筋肉質の男性によって何の説明もなしに家から連れ出され、青少年の矯正施設に連れて行かれた(!)体験について語っている。ミシャはノンバイナリーをカミングアウトしており、現在自伝的な作品に取り組んでいるとのこと。幸運を。

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だからリスペクトしろって言っただろ!「ズーム 見えない参加者」

※ネタバレがあります。

 

あらすじ

 

パンデミックのためロックダウン中のイギリス。ヘイリーたちは霊媒師を招き、Zoom交霊会を行う。最初は楽しかった儀式は、しかしやがて異変を招く。

 

感想

 今や大多数の人が一度はZoomを使ったことがあるのではないだろうか。Zoomはとても便利である。遠くにいる人とも顔を合わせて話すことができる。しかしその便利さゆえに悲劇をも生んできた。たとえばZoomでリモート裁判(!)中の弁護士が、猫フィルターを外すことができず、「私は、……私は猫じゃないんです……!」と訴える羽目になる、などである。

 

 ちなみにこちらがその映像だ!↓

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 本作で描かれるのはZoomで交霊会(!)をしてみたら、参加者の一人が霊へのリスペクトに欠けた行いをしてしまったがためにとんでもないことになるありさまである。教訓。人にはリスペクトを持とう! 霊にもリスペクトを持とう! 一度うっかり邪悪な霊に失礼なことをしてしまったが最後、ヘイリーたちには何をどうすることもできない。一番ヒドイ目に遭わされるのはしょっぱなから彼女に呼ばれて脱落したテディだと思うが、この人に至っては交霊会でどんなことが起こったのか見ていないため、何が何だかわからないうちにけっこう凄い目に遭わされてしまうのでかわいそうである。Zoomで繋がってはいても実際にいる場所は遠く離れているため、あなたは誰も助けることはできないし、誰もあなたを助けることはできない。それを一番感じたのがこのケースでした。霊はひっそりと存在を感じさせたり、姿を見せずに襲ってきたり、カメラの顔認証に反応するとか、椅子を突然凄い速さで引くとか、いろいろと頑張ってくれるのだが、その怖がらせっぷりは日本版予告編でけっこう映ってしまっているので、予告編は見ずにいきなり本編を観た方がいいと思う。一時間ちょっとというコンパクトさで、ぎゃあぎゃあ言っているうちに終わります。面白かったし怖かったよ!

 

ちなみに

 

・監督ロブ・サヴェージの短編作品はいくつか本人の公式HPのWORKで観られます。

 

www.rob-savage.co.uk

 

 

そこで観られる“DAWN OF THE DEAF”が面白いので貼っておきます。ぜひこのアイデアで長編化してほしい。「ズーム 見えない参加者」のヘイリー、ラディーナ、キャロラインも出演。

※性加害描写があるので注意!

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子どもを守ろうとする母。しかし二人を襲うモンスターが!頼りになるのは塩で描いたサークルだけ!というワンアイデアわずか2分間の短編”SALT”も見ごたえあり。

 

www.rob-savage.co.uk

 

 

少女の誤解が悲劇を生む、南アフリカのバンドDear Readerの”Took Them Away”という歌のミュージックビデオも歌声の物悲しさと相まって一編の短編映画を観ているよう。

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