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リー・ワネルは死体が好き「アップグレード」

 

※ネタバレがあります。

 

予告編

 

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あらすじ

パラノーマル・アクティビティ」のジェイソン・ブラムが製作、「インシディアス」シリーズで脚本や監督を務めたリー・ワネルがメガホンを取ったSFアクション。近未来、妻と平和な日々を送っていたグレイは、突如現れた謎の組織によって妻を殺され、自身も全身麻痺となってしまうが、巨大企業の科学者によって実験的に埋め込まれたAIチップ「STEM」の力によって麻痺を克服し、人間を超越した身体能力を手に入れる。グレイは脳内で会話する相棒的存在である「STEM」と協力し、最愛の妻を殺害した謎の組織への復讐を誓う。主人公グレイ役を「プロメテウス」「スパイダーマン ホームカミング」のローガン・マーシャル=グリーンが演じる。(映画.comより引用)

 

感想

 ジェイソン・ブラムリー・ワネル。ときたら当然ホラー…と思うところだが、SFなのだ、これが。妻を殺され全身麻痺になった男が、AIチップ「ステム」のおかげで体の自由を取り戻す…どころか最強の戦闘スキルまで手に入れてしまい、脳内でしゃべるステムと協力して妻殺しの犯人を追う。

 まず戦闘シーンが面白い。無駄な動きを一切排し、そのために逆に緩慢にさえ見える必要最小限の動きで敵を倒していく、のだが、そこはやはりリー・ワネル!俺は!えげつない死体が!見たい!と言わんばかりに無駄に倒し方がホラーである。検死シーンとか手術シーンもあるのだが、そこも妙に力が入っていて、「ほらほら~内臓だよ~好きでしょ~」と言われているみたいだ。いや、好きだけども。

 銃が手に埋め込まれていて腕から弾を込めるとか、完全自動運転の自動車とか、そういうSF部分も楽しい。

しかし、残念なところも。敵の数が少なく割とあっさりと皆やられてしまう感があるので、これでたとえば「ハードコア」くらいあのステム戦法で殺してくれていたら突き抜けた傑作になったのではないかなあ。

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(全身を改造された男が全編人を殺しまくるよ!IMDBトリビアによると本編中で211人死んでるらしいよ!)

あと展開のひねりや黒幕の正体も、面白いんだけど、どこかで観た感はあり、予想の域を超えるものではなかった。とはいえ面白いことは面白いし、よくできてるし、見逃すのはもったいない映画だと思うので、気になってた人はぜひ。

 

 

ノンバイナリーのレプリゼンテーション

 

さて、この映画には興味深い会話がある。短いながらも強い印象を残すハッカーのジェイミーの登場シーン。

ハッキングをせかすグレイに、ジェイミーが言う。

 

“Please don’t ask my gender”(私の性別は訊くな)

“You’re the one wasting time, putting me in the binary box”(私を二元論の箱に入れて時間を無駄にしているのはそちらでしょう)

 

※英語の台詞は聞き取ったものなので間違っていたらすみません。()内は拙訳。

 日本語字幕では全然違う台詞になってたよ!

 

これを聞いて私はおっとなった。

「私を二元論の箱に入れる」とはつまり、「二つしかないもののどちらかにあてはめて考える」くらいの意味であろう。これはつまり、その前の「私の性別は訊くな」と合わせて、「『男か女か』という枠に入れるな」ということだと思われる。ジェイミーはノンバイナリーなのだ。

 

ノンバイナリーとは、

性自認が男性と女性の間のグラデーションの上にあるとか、男性でも女性でもない(該当する性別がない)とか、どちらでもあるといった、男性/女性の典型的な二分法(バイナリー)に当てはまらない方全般を指します。

 

www.outjapan.co.jp

 

ジェイミーを演じたKai Bradleyは実際にノンバイナリーの俳優。ジェイミーのこの台詞にはKai Bradleyの意見が反映されているのかもしれない。

 

stmartinsyouth.com.au

 

まだまだノンバイナリーのレプリゼンテーションが少ない中で、ジェンダーをテーマにしたのではないエンタメ映画にさらりと登場するジェイミー。これですよ。これが「マイノリティが、マイノリティをテーマにしているのではない物語に、フツーに存在する姿」なのです…!

私はノンバイナリーの当事者ではないが、このシーンを見て「やったぜ!」となってしまった。こんなふうに、フツーにアクション映画とかSF映画とかにいろいろな人間が出てくるのをもっと見たいものである。

 

ちなみに

 

・映画におけるノンバイナリーのレプリゼンテーション、最近では「ジョン・ウィック:パラベラム」のエイジア・ケイト・ディロンがいる。