映画を観る準備はできている。

映画についてのいろいろな話。

私の好きそうな映画なんだけどなあ…「ブラック・クリスマス」

※ネタバレがあります。

 

予告編

日本版予告編を見たらかなり終盤の展開をばらしてしまっており、オリジナル版も似たようなものだったので貼りません。

 

あらすじ

1974年のカナダ映画暗闇にベルが鳴る」を、「グリーンルーム」のイモージェン・プーツ主演でリメイクした青春ホラー。クリスマス休暇を満喫する大学生たち。そこへ不気味な覆面を被った殺人鬼が現れ、学生たちを次々と惨殺していく。女子学生のライリー、クリス、マーティ、ジェシーの4人はおびえながらも、武器を手に取り殺人鬼と戦うことを決意する。共演に「ソウ」ケイリー・エルウィズ。「ゲット・アウト」のブラムハウス・プロダクションズが製作を手がけ、「ブラック・ビューティー」のソフィア・タカールがメガホンをとった。(映画.comより引用)

 

感想

 たとえば「ゲット・アウト」は人種差別という社会問題をテーマにしながらホラー映画としてもとても恐ろしく作られた傑作だった。「ブラック・クリスマス」ははっきりとフェミニズムをテーマにしたホラーである。そして私は女性差別に反対するホラー映画ファンである。いかにも私が好きそうな映画ではありませんか。しかし残念ながらそうはいかなかったのである。この映画、フェミニズムをテーマにした映画としてもホラー映画として問題ありありではないか…

 「エルム街の悪夢(2010)」で語ったことをここでもくり返さねばならないようだ。問題は監督である。本当に身も蓋もねえな!

 

 この監督はホラー演出にあまり興味がないようである。中盤でいきなり弓が飛んでくるシーンくらいしか「ひいっ」とさせてくれるところがなかった。また、犠牲者たちの亡骸を極力見せないようにしている感がある。ホラー映画とそこに出てくる女性との関係を真剣に語るとなると一冊の本を書く必要があると思うのでここではふわっと語るに留めるが、恐らく無残に殺される女性を消費したくなかったのではないだろうか…と想像する。しかし無残に殺される女性をフェティッシュに描かなくても恐怖は描けるはずだ。そしてホラー映画ファンはびくびくしながら映画を観たいのだ。悪役の仮面の男たちがいまいち怖くないのがいけないんだと思います。こいつらがもっと怖かったら反撃シーンでもっとすかっとしたはずなのだが…

 そして、フェミニズムをテーマにした物語として。この物語の主人公ライリーが自らの性被害をネタにして加害者を告発するショーを披露する場面がある。元々は友人たちが出演するはずが、一人が出られなくなりライリー自身が代役を務めることになる。ショーが行われる場所には彼女を加害した犯人の男もいる。ライリーは出演を嫌がるが、友人のクリスはそんな彼女に「逃げちゃだめ」だと言ってショーに出るように言う。

私はこのクリスの言葉に賛同できない。被害者に、加害者といる場所に出て行って「戦う」ように他人が言うことは二次加害になりかねないのではないか。本人がそれをやりたがっているのでサポートする、というのならわかるのだが…そして後にライリーがこの件について「私は嫌だったのに」と怒るシーンがある。そりゃあ怒るよね…と思っていたら終盤、恐らくはこれを受けてライリーはクリスに「私が戦うべきだったのに」と謝るのである。

いやいや待て待て。ライリーが「私は嫌だったのに」と怒る場面の後に、ライリーとクリスが車で逃げだして、「警察に行こう」と言うクリスに対しライリーは「仮面の男どもを操る黒魔術を破るためなんかわけのわからん石像をぶち壊しに行こう」と言うんですよ。警察は彼女が性被害に遭った時信じてくれなかった、自分で動くしかないと。でもクリスは同意しなかったので、ライリーは一人で仮面の男どもの本拠地に向かうのです。黒魔術とか、石像とか、わけのわからんのはわかりますよ。でもそれって本当に、まんま性被害の訴えを信じない警察その他のアカン態度を、友人であるクリスがくり返してしまっているわけです。クリスはライリーを一人で戦わせたんだよ。戦わなかったのはあんただよ。クリスが最終的にはライリーの言葉を信じたから最後には援軍を引き連れて助けに来てくれたのはわかるんですよ。でもね、ライリーが一方的にクリスに謝るのっていうのは違うと思う…もやっとするぜそこはさ…

というわけでフェミニズム映画としてもホラー映画としても賛同できない映画でしたね…

 

ちなみに

 

・まんま「ノットオールメン」をめぐる議論みたいなところがあるのだが、本当にNot all menと言うので「本当にノットオールメン言うた…!」という謎の感動を味わえたぜ。

ノットオールメンについてはこちらをどうぞ↓

 

www.ellegirl.jp

 

 

・終盤のシーン、字幕では「君が決めろ」となっている台詞は、英語ではYour body, your choice。人工妊娠中絶規制への反対のスローガンにもなっているMy body, my choiceのもじりであろう。

www.wwdjapan.com