映画を観る準備はできている。

映画についてのいろいろな話。

奇跡は起こらない、でも。「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」&「映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

「とびだす絵本とひみつのコ」はこちら↓

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「青い月夜のまほうのコ」はこちら↓

www.youtube.com

 

 

あらすじ

「とびだす絵本とひみつのコ」

 

「日本キャラクター大賞 2019」でグランプリを受賞したサンエックス株式会社の大人気キャラクター「すみっコぐらし」の劇場版アニメーション。すみっコを好む個性的なキャラクターたちが、不思議な絵本の中で繰り広げる大冒険を描く。ある日の午後、お気に入りの喫茶店「喫茶すみっコ」を訪れたすみっコたちが注文した料理を待っていると、地下室から謎の物音が聞こえてくる。音の正体を確かめに行ったすみっコたちは、そこで1冊の飛び出す絵本を発見する。絵本はボロボロでページの大事なところがなくなっており、桃太郎のお話のページには背景があるだけでおじいさんもおばあさんもいない。すると突然、大きな影が現れ、えびふらいのしっぽが絵本の中に吸い込まれてしまう。「アイドルマスター シンデレラガールズ劇場」のまんきゅうがメガホンをとり、「銀河銭湯パンタくん」の角田貴志が脚本、「がんばれ!ルルロロ」のファンワークスがアニメーション制作を担当。(映画.comより引用)

 

 

 

「青い月夜のまほうのコ」

 

サンエックス株式会社の人気キャラクター「すみっコぐらし」を映画化し、スマッシュヒットを記録した「映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ」に続く劇場アニメ第2弾。とある秋の日、キャンプへ出かけたすみっコたちは、空にいつもより大きく青く輝いている月を発見する。「5年に1度の青い大満月の夜、魔法使いたちがやって来て夢をかなえてくれる」という伝説の通り、すみっコたちの町に魔法使いの5人兄弟が出現。彼らはあちこちに魔法をかけ、町中をパーティ会場のように彩っていく。楽しい夜にも終わりが近づき魔法使いたちは月へと帰っていくが、たぴおかが魔法使いのすえっコ・ふぁいぶと間違えられて連れて行かれてしまう。前作に続き、井ノ原快彦と本上まなみがナレーションを担当。「夏目友人帳」シリーズの大森貴弘が監督を務め、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の吉田玲子が脚本を手がけた。

(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 すみっコぐらし、である。

 あなたもなんとなく見かけたことくらいあるかもしれない。なんか丸っこくて、柔らかくて、見ているだけでほわーんとなるようなキャラクターたちを。ぬいぐるみをはじめとした数限りないグッズに、グッズ&テイクアウトショップ「すみっコぐらし堂」、メトロポリタン美術館展(!?)他とのコラボ、などなど、多面的に展開している「すみっコぐらし」であるが、映画も制作されヒットを記録している。それがこの二本だ。

 アニメとしては、とにかくかわいい。いや、元々のキャラクターがかわいい、というのはもちろんわかるのである。しかしこのパステルカラーの選択といい、キャラクターそれぞれに声優をあててしゃべらせるのではなく素朴なナレーションで物語を語りつつ台詞は書き言葉にする、という選択といい、このキャラクターたちの世界をアニメにするにあたっては大正解じゃなかろうか。ランタイムが一時間そこそこというのも日々お疲れの身にはありがたい。そして物語だが…

 そう、物語について語りたいのである。それも「とびだす絵本とひみつのコ」&「青い月夜のまほうのコ」二本をセットにして。

 まず「とびだす絵本とひみつのコ」において、すみっコたちがこれまで懸命におうちを見つけてあげようとしていたひよこが、元々えほんに描かれたらくがきであることが判明する。そこですみっコたちは自分たちの世界で一緒に暮らすようひよこに提案する。

 「青い月夜のまほうのコ」では、魔法使いたちが末っ子のふぁいぶに優しくしてくれたとかげの夢をかなえてあげようとする。

 これら二本の映画は、言うまでもなくすみっコたちが暮らすここではないどこかを舞台としており、そこでは現実の世界ではありえないことが起きたりする(食べてもらえなかったとんかつのはじっこがしろくまと同じサイズで意志を持って動きまわったりしている)。映画のメインターゲットは、作りからして子どもたちだろう。だから、いいんじゃないだろうか、と思うのである。多少の奇跡が起こって、それでキャラクターの願いが叶っても、それはそれでいいんじゃないだろうか。

 しかし、どちらの映画でも奇跡は起こらない。「とびだす絵本とひみつのコ」のひよこは、あくまで「えほんに描かれたらくがき」なのであり、すみっコたちの世界に行くことはできない。「青い月夜のまほうのコ」では、とかげの夢――おかあさんといっしょに暮らしたい――を、魔法使いたちは叶えることができない。ひよこは結局えほんの世界に居続けるし、とかげは「本当はきょうりゅうである」という正体を仲間にも隠したまま、おかあさんであるきょうりゅうと離れ離れに暮らし続ける。

 現実の世界の話をしよう。どんなに願ったところで、世界にはどうにもならないことはある。もっと生きていたい人が病気にかかったり、事故に遭ったりする。それは誰が悪くて起こるのでもない。「病気にならないで」「事故に遭わないで」とどんなに強く願っても、奇跡が起こって都合よく病気や事故やその他のどうしようもないことから人が守られることはない。決して、ない。私たちは「じゅうぶん強く願えば叶う世界」に生きているわけではないし、今あるこの世界を、「じゅうぶん強く願えば叶う世界」に変えることもできない。私たちにはそんな力はない。

 私たちには、強く願って奇跡を起こす力はない。けれど、自分のできることをやって、自分自身や周りを少しだけよくすることは、できるのだ。すみっコたちが「とびだす絵本とひみつのコ」において、ひとりぼっちのらくがきのひよこのためにしたことがそうだし、魔法使いたちが「青い月夜のまほうのコ」において、とかげのためにしたことがそうなのだ。

 安易な奇跡によって世界の姿を変えキャラクターを救済するのではなく、あくまでままならない世界において自分たちにできるかぎりのことをやる。この二本の映画がそういう物語であることが私はとてもうれしい。

 

ちなみに

 これが「すみっコぐらし」公式サイトだ!↓

 

www.san-x.co.jp

 

 

 これが「すみっコぐらし堂」だよ!公式サイトからも飛べるよ!(行きたい)↓

 

sumikkogurashido.jp

 

 

 メトロポリタン美術館展とのコラボはこちら↓から!ちょっと…かわいすぎるんすけど…

www.san-x.co.jp

この映画で理解できるのはニコラス・ケイジだけだぜ!「ウィリーズ・ワンダーランド」

※ネタバレがあります。

 

予告編

 

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あらすじ

ニコラス・ケイジが製作・主演を務め、廃墟となったテーマパークで悪魔のようなアニマルロボットたちに襲われる人々を描いたアクションスリラー。車が故障し、人里離れた町に取り残された男。通りかかった修理工に助けられるが修理代を払えず、支払いの代わりに、廃墟となったテーマパーク「ウィリーズ・ワンダーランド」の清掃員として一晩だけ働くことに。しかしパークには暗い過去があり、かつて子どもたちに大人気だった動物キャラクターのロボットたちは恐ろしい殺人鬼と化していた。園内に閉じ込められた男は、容赦なく襲い来るロボットたちと死闘を繰り広げる。新宿シネマカリテの特集企画「カリコレ2021/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2021」(2021年7月9日~8月5日)上映作品。(映画.comより引用)

 

感想

 あらすじには書かれていないのだが、この映画には殺人ロボットを全滅させるべくテーマパークに火を点けようとする若者たちが出てくる。当初は外からガソリンをかけて火を点けよう!という計画だったのが、いろいろあって殺人ロボットがうようよしているテーマパークに入りこんでしまった若者たち。そしてその中には一組カップルがいるのだが、これが意味不明な行動をとる。なんと他の若者たちと離れて別室に閉じこもり、いちゃいちゃ(婉曲表現です)しはじめるのである!

 俺にはわからない…なぜそんなことをするのだろう…殺人ロボットがうようよしていいるのに…

 また、若者たちの中には中心人物であるリブに恋心を抱いている、というどうでもいい設定を背負ったクリス君という男の子がいる。このクリス君が殺人ロボットの一体に話しかけられるところがあり、ロボットは「わたし他のロボットとはちがうの、皆わたしのこと醜いって言っていじめるのよ」などと言う。もちろんそんな言葉にだまされるクリス君ではありません…ととても言いたいのだが、クリス君はなんとこの言葉を信じるのである!!

 俺にはわからない…なぜ信じるのだろう…やばい殺人ロボットだとわかっているはずなのに…

 まあそんなわけで本作は登場人物がよくわからないご都合主義な行動をとるタイプの映画なのだが、そんな中で唯一筋が通っているのがニコラス・ケイジなのである。

 ニコラス・ケイジは「一晩このテーマパークをお掃除したら車の修理代はチャラにしてあげますよ」と言われ、それを受け入れる。オファー時に、彼はテーマパークのオーナーから「ちゃんと休憩もするのですよ」と言われたのを忠実に守ってアラームが鳴ったらエナジードリンクを一缶飲みゲーム機でゲームしあとなんか踊ったりもして休憩を取る。そしててきぱきお掃除をし、その一環として邪魔する殺人ロボットどもをぶち殺し(死体はちゃんとゴミ袋に詰める)、たとえ外に出られるチャンスがあっても逃げようとしない。若者たちが出してあげようとして「ここにいたら殺されるんですよ」と言ってもそんなものは無視である。だってお掃除をしないといけないからだ。彼の行動は首尾一貫していて、「車を取り返す」ことを目的として「掃除をし」「休憩をする」。「殺人ロボットを始末する」は「掃除」部分に含まれているわけである。筋の通った論理的な行動をするニコラス・ケイジが見ていて非常に気持ちがいい。このわけのわからん世界であなただけが理解可能です。

 しかしこの映画、せっかくニコラス・ケイジがこんなにも共感度マックスの男を演じてくれているのに、それ以外がまるで駄目なのである。まず殺し方が駄目。ケヴィン・ルイス(監督です)よ、お主ホラー畑の人間ではないな…と思ってIMDBをチェックしてみたら、案の定、犯罪サスペンス系が多い人のようである。これをもしホラー愛にあふれ見せ方が分かっている監督が血しぶきやグロにまみれたすんげえ殺し方満載で撮っていてくれていたら怪作になっていたかもしれないのに…と、それが残念である。しかしニコラス・ケイジは見てくれ。

 

ちなみに

 ・ニコラス・ケイジは劇中一切しゃべりません。

 ・ニコラス・ケイジニコラス・ケイジと連呼してしまったが、役名はThe Janitor(清掃員)です。本名もわからないのさ!

毎日別人になるあなた「エブリデイ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

日本語版は見つけられず。

英語版はこちらですがけっこうネタバレかも。カットされたシーンがけっこう入っている。鑑賞後に観ることをおすすめします。

 

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あらすじ

 

デビッド・レビサンの小説「エヴリデイ」を実写映画化したSF青春ラブストーリー。毎朝違うティーンエイジャーに憑依して目を覚まし、毎日違う人生を送る霊体“A”。ある日、16歳の高校生ジャスティンに憑依したAは、彼の恋人リアノンに恋をする。その後、カトリック信者ネイサンに憑依したAはリアノンに思いを告白。さらに数日後、Aは手紙でリアノンを呼び出し、自分の正体を打ち明ける。毎日違う人物になって現れるAに違和感を抱きながらも、交流を深めていくリアノンだったが……。ヒロインのリアノン役に「ナイスガイズ!」のアンガーリー・ライス。共演に「名探偵ピカチュウ」のジャスティス・スミス、「20センチュリー・ウーマン」のルーカス・ジェイド・ズマン。監督は「君への誓い」のマイケル・スーシー。(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 

 リアノンの母親役はマリア・ベロジャスティン役はジャスティス・スミス(「名探偵ピカチュウ」は未見なので私にとっては「ジュラシック・ワールド 炎の王国」のスクリーム担当さん)、Aが乗り移る体の持ち主ジェームズ役でMCUの「スパイダーマン」の相棒ネッドことジェイコブ・バタロンも顔を出し、脚色は「ぼくとアールと彼女のさよなら」の原作者兼脚色のジェシー・アンドリュース、となかなかに豪華な面々が、デイヴィッド・レヴィサンの「エヴリデイ」を映画化。毎朝起きると違う人間になっていて、24時間限定でその人として暮らす、という生活を生まれてこのかたずっと続けているAという存在を、どうやって映像化するのかな、たとえば誰か一人にナレーションさせたりとかするのかな、などと観る前に思ったが、潔くいろいろな俳優に一人の人物を演じさせるというやり方を採用している。この映画ではリアノンの視点で物語が進むが、原作ではAの視点で物語が語られるので、けっこう受ける印象が違う。映画でも触れられている通り、いろいろな体で人生を経験するAは自らを男だとも女だとも思っていないので、字幕(今回は字幕で観ました)にもそれを反映させて、俗に言う「女言葉」「男言葉」はしゃべらないようにしてほしかったなあ、と思う。原作小説の日本語翻訳はその点ちゃんと考えられていて絶妙な言葉遣いになっていたという印象がある。

 

原作小説はこちら!

honto.jp

 

 

 実は原作小説で重要な要素になっているものが、この映画版ではばっさりと削除されていて、映画版ではAとリアノンの関係に焦点を当てた作りになっているのだが、これはこれでありじゃないかな…と思う。ふたりがダンスしたり、水族館に行ったり、一緒にシャボン玉を作ったりする場面はきらきらしていたし、その後もふたりが繋がりを持っているということを暗示するラストの処理も、なるほどと思った。

 

ちなみに

 

・Aが乗り移ったトランスの男の子とリアノンが会話する短いシーンがある。このトランスの男の子を演じる俳優が印象的だったので調べてみたところ、この人はイアン・アレクサンダー。トランスジェンダーで、ノンバイナリーであることをカミングアウトしている。ゲーム「The Last of Us Part II」でもトランスジェンダーのLev役を演じ、「スタートレック:ディスカバリー」では「スタートレック」史上初のトランスジェンダーのキャラクター、Gray役を演じ、トランスジェンダーであることをオープンにしているアジア系アメリカ人として初めてテレビ出演した人物となった。ちなみにまだ二十歳。

 

deadline.com

 

 

とにかく明るい青春ホラー「ザ・スイッチ」

※ネタバレがあります。

 

予告編

 ちょっと間違ってる気がするけど…(ミリーは殺されてはいないからね…)

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あらすじ

「透明人間」「ゲット・アウト」などホラー、サスペンスの話題作やヒット作を数多手がけるジェイソン・ブラムが製作、「ハッピー・デス・デイ」シリーズのクリストファー・ランドンが監督を務め、気弱な女子高生と連続殺人鬼の身体が入れ替わってしまったことから巻き起こる恐怖を描いた異色ホラー。家でも学校でも我慢を強いられる生活を送る冴えない女子高生のミリー。ある夜、アメフトの応援後に無人のグラウンドで母の迎えを待っていた彼女に、背後から指名手配犯の連続殺人鬼ブッチャーが忍び寄る。鳴り響く雷鳴とともにブッチャーに短剣を突き立てられたミリーだったが、その時、2人の身体が入れ替わってしまう。24時間以内に入れ替わりを解かなければ、二度と元の身体に戻れない。ミリーは新たな殺戮を企てるブッチャーを相手に、自分の身体を取り戻そうとするが……。「名探偵ピカチュウ」「スリー・ビルボード」のキャスリン・ニュートンがミリーに扮し、ブッチャーと入れ替わり後は手当たり次第に殺戮を企てる殺人鬼を熱演。一方、中身は女子高生で自分の身体を取り戻そうするブッチャーをビンス・ボーンが演じた。(映画.comより引用)

 

 

 

感想

 最初のブッチャーが若者たちを殺していくシーンから、ホラーファンとしてはいいね!となる。殺し方がそれぞれにエグい。エグくてオリジナリティにあふれている。あなたはホラー映画の殺しにオリジナリティを求めるタイプのホラーファンですか。私はそうである。前置き無しでいきなり殺戮シーンから入るのもいいね!

 しかし青春ホラーって、あまりにも主人公の周りの人たちがいい人過ぎると、殺された時に「いやーやめてー」となりませんか。この映画にも主人公と親友二人、主人公の片思いの相手、主人公の家族、などなどいい感じのキャラクターが多数出てくるのだが、「い、いや、まさかこの人たちが無残に殺されるなんて…そんなのやめてー」と思いながら見ていた。でも大丈夫。主人公は冴えないいじめられっ子なため、これまで主人公をいじめてきたイヤーな教師とか、イヤーなクラスメイトとか、イヤーな男子生徒とかがかわりに殺されてくれます。これで殺される人数が確保され、人が殺されてもそこまで嫌な気持ちにならず、なおかつ主人公周りのキャラクターを応援しながらこの映画を楽しむことができるのです。作り手はよくわかっていらっしゃる。

 個人的にはヴィンス・ヴォーンの女子高生演技にはちょっと誇張され過ぎじゃね?と感じこれ↓を思い出してしまった。まあこういうシチュエーションならこれくらい大げさな方がいいかもしれないんだけどね。

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 ラスト、よくある入れ替わりものなら「実は元に戻ってなくて…」殺人鬼が実は生きていた系なら「家族が皆殺しにされ主人公も捕まって…」みたいな絶望的なエンディングばかりが頭に浮かんでしまい、一体どうやって終わらせるのかな…と思っていたのだが、見せられてみたら「うんこれしかないよね!大正解!」なエンディングでよかった。ミリーは大柄な成人男性という「肉体的な強さ」を経験したわけだけど、でもこのエンディングで描かれているのは彼女が身に着けた「精神的な強さ」がそれに打ち勝つ姿であり、内気で引っ込み思案だった女の子が「私にもできる」という自信を手に入れる姿であって、これぞ正しい青春映画の在り方だと思いました。

 

ちなみに

 

・「黒人とゲイじゃ絶体絶命!」

 メタな台詞である。ジョシュ君…

 

・「話すのは早いと思ったけど…女性が好きだ」

 「それだけは絶対にないわ」

 こんなカミングアウトシーン(嘘だけど)見たことないぜ。ジョシュ君...。

 

・今作で実に生き生きとジョシュを演じているミシャ・オシェロヴィッチだが、実はここに至る道は平坦なものではなかった。こちらのインタビューでは十五才の時、夜中に両親の雇った二人の筋肉質の男性によって何の説明もなしに家から連れ出され、青少年の矯正施設に連れて行かれた(!)体験について語っている。ミシャはノンバイナリーをカミングアウトしており、現在自伝的な作品に取り組んでいるとのこと。幸運を。

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だからリスペクトしろって言っただろ!「ズーム 見えない参加者」

※ネタバレがあります。

 

あらすじ

 

パンデミックのためロックダウン中のイギリス。ヘイリーたちは霊媒師を招き、Zoom交霊会を行う。最初は楽しかった儀式は、しかしやがて異変を招く。

 

感想

 今や大多数の人が一度はZoomを使ったことがあるのではないだろうか。Zoomはとても便利である。遠くにいる人とも顔を合わせて話すことができる。しかしその便利さゆえに悲劇をも生んできた。たとえばZoomでリモート裁判(!)中の弁護士が、猫フィルターを外すことができず、「私は、……私は猫じゃないんです……!」と訴える羽目になる、などである。

 

 ちなみにこちらがその映像だ!↓

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 本作で描かれるのはZoomで交霊会(!)をしてみたら、参加者の一人が霊へのリスペクトに欠けた行いをしてしまったがためにとんでもないことになるありさまである。教訓。人にはリスペクトを持とう! 霊にもリスペクトを持とう! 一度うっかり邪悪な霊に失礼なことをしてしまったが最後、ヘイリーたちには何をどうすることもできない。一番ヒドイ目に遭わされるのはしょっぱなから彼女に呼ばれて脱落したテディだと思うが、この人に至っては交霊会でどんなことが起こったのか見ていないため、何が何だかわからないうちにけっこう凄い目に遭わされてしまうのでかわいそうである。Zoomで繋がってはいても実際にいる場所は遠く離れているため、あなたは誰も助けることはできないし、誰もあなたを助けることはできない。それを一番感じたのがこのケースでした。霊はひっそりと存在を感じさせたり、姿を見せずに襲ってきたり、カメラの顔認証に反応するとか、椅子を突然凄い速さで引くとか、いろいろと頑張ってくれるのだが、その怖がらせっぷりは日本版予告編でけっこう映ってしまっているので、予告編は見ずにいきなり本編を観た方がいいと思う。一時間ちょっとというコンパクトさで、ぎゃあぎゃあ言っているうちに終わります。面白かったし怖かったよ!

 

ちなみに

 

・監督ロブ・サヴェージの短編作品はいくつか本人の公式HPのWORKで観られます。

 

www.rob-savage.co.uk

 

 

そこで観られる“DAWN OF THE DEAF”が面白いので貼っておきます。ぜひこのアイデアで長編化してほしい。「ズーム 見えない参加者」のヘイリー、ラディーナ、キャロラインも出演。

※性加害描写があるので注意!

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子どもを守ろうとする母。しかし二人を襲うモンスターが!頼りになるのは塩で描いたサークルだけ!というワンアイデアわずか2分間の短編”SALT”も見ごたえあり。

 

www.rob-savage.co.uk

 

 

少女の誤解が悲劇を生む、南アフリカのバンドDear Readerの”Took Them Away”という歌のミュージックビデオも歌声の物悲しさと相まって一編の短編映画を観ているよう。

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オンラインで観られる!短編ホラー映画8選

最近体調が悪く長編映画を観る元気がない。そんな人はいないだろうか(私です)。

そんなあなたに贈る、YouTubeなどの動画サイトで手軽に観られる短編ホラー映画リストです。全部、一度は観てほしい面白い映画ばかりです。リンクもあるよ。

 

Selfies Gone Wrong

 

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監督Bradley Walkowiak

セルフィーを撮るのが大好きな女性が、写真を見直していてある恐ろしい事実に気づく。3分未満という短さで見事にぞっとさせてくれる、「絶対現実に起こらない」とは言い切れない恐怖を描いた一編。

 

Pictured

 

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監督デヴィッド・F・サンドバーグ

不審な物音。廊下に飾られた写真に起きた異変。そして…監督デヴィッド・F・サンドバーグ&女優ロッタ・ロステン、ホラー短編映画界を代表する夫婦のタッグで贈るお手本のような短編。高まる緊張感に最後のショック!

 

ROOM8

 

www.shortoftheweek.com

 

監督James W. Griffith

奇妙な箱を使って牢獄から逃亡しようとした男の末路。「トワイライト・ゾーン」にありそうな奇妙な味の一編。

 

INTRUSION

 

www.shortoftheweek.com

 

監督Jack Michel

「誰かが家の中にいる、と思う」――手持ちカメラのリアルな映像で記録された、あるホーム・インベージョン。7分程度の短さで緊迫感、恐怖、驚きを味わわせてくれる。

 

THE APOCALYPSE

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監督Andrew Zuchero

○○したら死ぬ!?未だかつてないほど死へのハードルが低く、こんなもん避けようがないだろ!と言うしかないアポカリプス。あえてどういうふうに死ぬかは言わないのでインパクトある死亡シーンをご覧ください。6分もないのに景気よくばんばん人(動物も)死にます。

 

Munchausen

 

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監督アリ・アスター

みんな大好きアリ・アスターによる短編映画。息子を溺愛する母親。しかし大学進学によるふたりの別れが近づいていた。そこで母は…やーめーろーよーとしか言えない悪趣味なストーリーがメルヘンチックな雰囲気の中で進むぜ!

 

El Ciclo

 

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監督ビクター・ガルシア

ゴミ袋に包まれた何かを捨てる男。血しぶき。銃。剃刀。そして…「な、なにい!?」驚きの運命が男を襲う!ちょっとこれ他にあんまり見ないような味わいの話です。ぜひ一度見てほしい。ちなみにタイトルはスペイン語で「周期、サイクル」という意味です。

 

Nose Nose Nose Eyes!

 

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監督Jiwon Moon

女の子と母親が楽しげにおしゃべりしている。ふたりは一見幸せそうな親子だ。しかし徐々に不穏な秘密があらわになっていく……最初の不穏なシーンから13分という長さで恐怖や痛みなど様々な感情を味わわせてくれる。母親の着ている緑のワンピースや金色のカーテンなど、映像的にも美しい。監督はまだ長編作品がないようなのだが撮ってくれたら絶対観たいぜ。

「若旦那はザンネン。」がアセクシュアルの登場する漫画として素晴らしかったところを挙げてみるよ。

※コミック「若旦那はザンネン。」のネタバレがあります。
 
かつて二度ほどアセクシュアルが登場する作品について書いたことがある。残念ながらどちらも作品を褒めたものではなかった。いろんな理由で褒められたものではなかったからだ。どちらも作品について何かを言わずにいるということを選択できるようなものではなかった。書いてて本当に残念である。
 
これ(通称:激怒ブログ、この漫画にはマジにマジで怒りしかない)↓
そしてこれ↓(上の漫画ほど酷くはないが(正直あれより酷いものはなかなか描けないと思う)しかし読んでいてハッピーにはならない漫画である)
しかし!私はアセクシュアルのレプリゼンテーションとしておすすめできる漫画に出逢ってしまった。ここまできちんとしたものを見たのははじめてである。これは声を大にしておすすめしたい!!というわけでふせったーで感想を書いたのだが、もっと見えるところに置きたいな、と思ったのでブログにも載せようと思う。
 
その漫画のタイトルは「若旦那はザンネン。」という。
 
私はかつて「私が考えた最強のアセクシュアル漫画」の条件を書いたことがある。これ↓だ。

1.その人物がアセクシュアルであることが明示される。

 理由はおわかりだろう。だってはっきり言っとかないと「この人はまだいい人に出会ってないだけで当然セクシュアルだよな」って思われるからだ!

 2.その人物のアセクシュアリティは物語の主題とはならない。

 フツーにアセクシュアルの人物がSFとかアクションとかミステリーに出てくるのを見たいんですよ私は。

 3. アセクシュアリティは特にその人物を苦しめてはいない。

 「マイノリティがマイノリティであるがための苦しみを味わう物語」の次に来る物語の話ですからね。アセクシュアリティ=不幸という呪いをかけないでほしい 。
 
「若旦那はザンネン。」はこの条件を満たしているか?

1.クリア。
主人公しのぶが、心を許したセイさんに「昔から人を好きになったことがない、好意を抱いても恋愛感情にならない」と打ち明ける→セイさんがそれに対して「それはたぶんアセクシャルというやつですかね」と返す→しのぶがその呼び名に納得する様子を見せるという流れでしのぶのアセクシュアリティが明示されている。

2.クリア。
しのぶのアセクシュアリティがテーマとして描かれるエピソードはあるが、作品全体のテーマは商店街の活性化である。

3.クリア。
しのぶのカミングアウトの後の会話で、しのぶは自身にとっての幸せを「自分の店でお茶を飲んで一人でも多くの人がお茶を好きになること、商店街がもっと繁栄すること」と語っている。いずれも彼のセクシュアリティとは無関係である。事情を知らない妹に恋人がいないことをからかわれたり将来を心配されたりはしているものの、そのことに過度に苦しんだり、自分が人に恋愛感情を抱けないこと自体を問題視したり、そのことに苦しんでいる描写はない。

全部クリアですよ。たった三つの条件だけど、アセクシュアルをテーマにしていて話題になった作品がこのたった三つの条件を満たしていない、それも2&3は特に思いっきり破っているところを何度か目の当たりにしている身としては、全部クリアなのがすごくうれしい。

そしてそして、更にボーナスがある。
カミングアウトシーンで、「たとえ誰かが自分を好きになっても、自分が同じように相手を好きになることはないので、相手は幸せになれない。だから誰とも付き合ったり一緒になったりする気はない」としのぶが言うところがある。しのぶがこれから誰かと付き合おうが付き合うまいが、それは彼の決断であり、その決意の表明には何も悪いところはない。しのぶはそうだ、というだけなのだ。でも私はここを読んで、「うん、しのぶがそうなのはいいんだよ、でもねでもね、世の中にはそうじゃないアセクシュアルの人もいてね」と言いたくなってしまった。くわしい説明はこちらを↓見てほしいのだが、パートナーと生きることを選択するアセクシュアルもいるからだ。
 

herve-guibertlovesmovies.hatenablog.com



しかし、作者、小池定路先生は裏切らなかった。カミングアウトシーンの直後ではないものの、後のエピソード間のおまけページに、「お互いの理解を得た上でパートナーの方と家族として暮らしている無性愛者の方もおりますことを追記しておきます」と書かれているのである!
しのぶの生き方をまったく否定せず、でも他の生き方を選ぶアセクシュアルもいるということをちゃんと追記。ちゃんと描く対象について調べていて、なおかつリスペクトが込められていることを、この追記から感じた。

こういう物語が描かれるのを待っていました。こんなにちゃんと描いてあるよと、皆に言って回れるものが、他のテーマではたくさん描かれているものが、アセクシュアルについても描かれるのを待っていました。

コメディタッチで、でも働くこと、生きることを真摯に描き、涙が出るようなやさしさがあふれている、いいものを読ませていただきました。「若旦那はザンネン。」全三巻、推しですぞ。